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白い石を運ぶべし!-閑話

2013-08-15      
 小さい頃は、母の実家を「伊勢」と称していた。その「伊勢」から最寄りの、それこそ2,3分で行ける外宮さん・・・通称「げくさん」(げくうさんときちんと言う人が多いと思う。アクセントを付けるなら、最後の「ん」だけが高い)は、小中学校時代の長い休みの記憶が詰まった場所である。夏休みと冬休みは勿論、春休みにも時々行っていたから、長いときでは1年の内2ヶ月ほどは「伊勢」にいた勘定になる。そして、外宮さんにもほぼ毎日通っていたようなものだ。

 冬休みは大晦日と正月の参拝が中心だ。「伊勢」に着いた次の日には必ず参拝し、正月三箇日、そして帰る日の朝にも参拝するわけだが、冬休みのメイン・イベントは何と言っても大晦日の「どんどん火」である。
 内宮・外宮は、大晦日に限り夜の参拝が認められ、参道のあちこちに火が焚いてあり、そこで長い棒が付いた独特な餅焼き網に丸い餅を挟み入れ、焼いて食べる。無病息災と長寿を願うわけだが、子供にとっては夜中に外で食べる熱い餅は実に美味しい。少し砂糖を付けながら食べると、さらに子供向けの焼き餅になる。
 外宮さんの杜が漆黒となり、焚き火から離れると真っ暗になってしまうから、少し勇気を出して大人と離れて歩くのが手軽な肝試しだ。従兄弟達と手を繋ぎ、足早に歩いて大人から距離を置こうとする度に「こらっ」と叱られ戻ってくる・・・これを飽きもせず繰り返していたわけである。
 子供は22時くらいには帰ってきて年越し蕎麦を少しだけ食べ、NHKの行く年来る年をBGMにして床につき、翌朝は歳の順にお屠蘇を頂いて雑煮を喰らい、またしても参拝・・・初詣に出掛ける。昨夜の焚き火の燃え残りを除けながら参道を歩き、まずは本殿前で賽銭を放り込む。正式とされる二礼・二拍手・一礼とは無縁の「二拍手+あん」(あん・・・は仏壇で拝む時と同じだ)で済ます。
 そして、多寡宮、風宮、土宮を参拝するために踵を返し、亀と鯉の沢山いる池を右手に少し高い方に登っていくが、そこに小さな穴の開いた石が橋のように横たえてある。かなり大きな平たい石だ。
 聞くところによると、外宮裏手の山の天辺には古墳があり、当時天皇がこの地に神宮を建造する際に居た土着民の長を鄭重に弔ったもののようで、その古墳の入り口を閉ざしていた言わば「石の扉」であるらしいが詳しくは知らない。まぁ、自分らにとっては「石に丸い穴が開いている」という所が妙に神秘的で、それも「水滴でできた穴」と教えられたが本当だろうか

 春休みのことは、そもそも毎年行ったわけではないから殆ど覚えていないので端折るとして、やはり何と言っても夏休み・・・専ら、外宮さんは「昆虫採集の場所」と言っていいだろう。
 鳥居に守られた内側では無論、昆虫採集など一切できない。これはかなりきつく言われていたことで、たまたま木々に珍しい甲虫が止まっていてもじっと観察するだけで我慢していたが、鳥居の外は別次元・・・昆虫の宝庫と言って良いだろう。

 まずは単純な話であるが、クマゼミを筆頭にそれこそゴマンと蝉がいる。蝉取り専用の継ぎ柄ができる小さな網で、それこそ簡単に取れる。外宮周辺の木々で取った自己最高記録は1日で101匹也。 詳しいところは省くが、この採集姿が新聞を飾ったこともある(知り合いの新聞記者にポーズを取らされた・・・)。
 捕ってきた蝉は「伊勢の家」に持ち帰り、従兄弟の女の子が持っていた絵柄の入った薄いテープを羽根に貼って逃がす。そして、次の日はそのシールが貼られた蝉が何匹捕れるか勘定すべく、家の周りの木を隈無く探すのである。
 或いは、夕方にシャンプー容器に入れた水を持っていき、アリの巣穴くらいの大きさの穴に片っ端から水を入れると、蝉の幼虫(アナゼミと呼んでいた)が這い出してくる。これを家の中の暗いところに止めておくと夜半頃から羽化を始め、翌日には蝉の成虫になる。殻を破って出てきた直後は白、或いは淡い草色でとても綺麗な蝉を拝めるわけだ。

 次に好きだった昆虫採集は「イトトンボ」だ。外宮さんの直ぐ横にある「勾玉池」の周りには、各種のイトトンボが群生していた。3cmほどの長さの細い胴体にウスバカゲロウのようなか弱い羽を付け、それでも立派にトンボの形をしている。幾種類かおり、真っ黄色や真っ赤なもの、それぞれ色の淡いもの、青いスジがあるもの(これはモノサシトンボ・・・本当に物差しのように、均等な間隔で縦縞がある)など、一度見たら誰でも虜になるだろう。
 こいつも捕まえてくると、「伊勢の庭にある池」の周辺に放してやる。すると、その夏はずっと「伊勢の庭」にイトトンボが行き来するようになるのである。ある年には、翌年の夏に(まだ、勾玉池で捕まえてくる前に)庭で見つけたこともあり、庭に大小三つある池のどこかに産卵し、それが成虫となって飛んでいたものと思われる。

 極めつけは大型のトンボ・・・オニヤンマに代表されるヤンマの類を、仕掛けを投げて捕まえるのだ。

 外宮さんの北御門には昔から駐車場がある。真夏に大挙してくる観光客も、流石に16時を過ぎると観光バスと共に徐々に消えていき、その駐車場は「広場」に様変わりする。この上空10mから20mくらいの所を、夕方の狩猟に出てきたヤンマが悠々と通過していくのである。このヤンマの進行方向の先に「ブリ」と呼ばれる輪ゴムと糸と錘でできた簡単な仕掛けを投げると、錘の部分を小さな昆虫と間違えて捕まえに来る。すると、糸の部分に羽根が絡まって飛べなくなり、くるくると落ちてくるという、にわかには信じられないことが起きるのだ。
 小型のトンボの中でも比較的どう猛なシオカラトンボやムギワラトンボはこの方法で捕まえられるが、アカネ、コシアキトンボ、チョウトンボやオハグロトンボ等々は臆病なため捕まえられず、逆に「ナンチャラヤンマ」の類は殆ど捕まえることができる。投げ方にコツがあるし、上手くすり抜けて逃げていってしまうこともあるから、ボウズの日もあれば、多いときには7,8匹を捕まえられることもある。
 ギンヤンマやヤブヤンマ、サナエの類は、羽根の色で雄雌の見分けが付くから、遠くから飛んでくるヤンマを見つけると、「あ、ギンツのメンタや」(あ、ギンヤンマの雌だ)とかワーワー叫んで追いかけていきヘロヘロになる。そして陽がとっぷりと暮れる頃にのんびり帰ると、心配した祖父や伯父に時に怒られてしまったりもする。

 他にもちょっと珍しい甲虫・・・もうこれ以上詳しくは書かないが、時に希な種を見つけることがあってこれを図鑑で調べて悦に入ったりと、とにかく「ムシ」には事欠かなかったのである。

 もし、内宮と外宮のどっちが好きかと尋ねられたら、今でも迷わず「げくさん」と大きな声で返事をするであろう。
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アパマンというハンデにさらにQRPまで課し、失敗連続のヘッポコリグや周辺機器の製作・・・趣味というより「荒行」か!?

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