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CW用クリスタルフィルタの設計・製作(その1)

2017-06-19      
 4月から先週まで「早出出勤」を余儀なくされいましたが漸くカタが付き、ちょっとだけ楽になりました。今日は自分へのご褒美休日としましたが、実は一昨日(土曜)の晩辺りから我がメインPCの具合がおかしくなり、データディスクの換装を余儀なくされてしまいました。何となく損した気分ですが、ここ当面の自作の目標であるクリスタルフィルタの設計・製作にも時間を割くことができたんで、その乗っけの部分から書いていこうと思います。

 フィルタ設計については、DJ6EV局作成の"Dishal Program”(以下、”Dishal"と短くしますね)の手を借りることにしました。このソフトを使ったフィルタ設計は、JA9TTT局、JA2NKD局、JH8SST/7局、他・・・のブログでも紹介されており、そちらをお読み頂いた方が我がヘッポコ記事より有用な情報が得られることは間違いありませんが、自分と同様にクリスタルフィルタの自作を画策している「まだまだ修行が足りぬ、未熟者でもクリスタルフィルタが作れるのんかいな」というホンの若干名の方には、逆に稚拙な読みものの方が有用かも知れませんので、その若干の方々のために自分の作業進捗に併せてヘッポコ実験の様子を何回かに分けて認めたい(みとめたいって読まないでね)と思います。

 以下、単元毎に進めていくことにしたいと思います。

1."Dishal”の準備

 "Dishal”を使ったフィルタ製作ですから、まずはこのプログラムを入手する必要があります。基本となるバージョンは、ARRLの”QEX誌”に添付されているプログラムのアーカイブサイトにあります。この”2009年”のフォルダにある”11x09_Steder-Hardcastle.zip”が圧縮ファイルです。これは”Ver 2.0.3.1であり、新しいWindowsへの対応などが必要な場合は、現時点での最新バージョン(と思われる)”Ver 2.0.5.1”を入手する必要がありますのでお気を付けあそばせ

 この設計に先立っては、ダウンロードした圧縮ファイルに同梱されている説明書を読みました。平易な英語で書かれた説明書だったため、拙い英語力でもある程度概要は捕まえられましたが、実際の設計事例(説明書の付録部分)については何度も読み返すことになりました。そこで、この英語の説明書を思い切って全て和訳してしまいました。著作権等もありますのでこれは公開はしませんが、自分としての理解はかなり深まりました。

 ちょっと脱線しますが、当初は「本格的なクリスタルフィルタはやっぱ8素子でしょ」と勝手に思い込んで設計を進めたところ、シミュレーションの時点で微調整が仕切れず帯域内のリプルが酷く、これを抑え付けるに至りませんでした。そこで6素子にしたところ、漸くまともな調整が利くようになり、シミュレーションではそこそこの特性まで追い込むことができるようになったんで、6素子(6ポール)を前提に記していきます。

2.水晶選び

 今回は、CW用の狭帯域フィルタにチャレンジします。帯域幅(BW)として250Hz(@-3dB)くらいのものができれば合格とします。勿論、「妙な具合に末広がり」では実用に耐えませんが、今後同様なフィルタを作る際の参考として「そこいらの水晶でどの程度のものができるのか」というポイントを確かめることに主眼を置きたいと思います。

 まずは水晶の諸元を測り、その中から「イイ感じ」のものをチョイスします。水晶の諸元の測り方は直前記事に記しましたので省略・・・今回は、諸元測定済みである18個の4.096MHzの水晶から6つを選びました。



 CW用のフィルタを作るわけですから、感覚的に「SSBのフィルタより個々の水晶の共振周波数が揃っている方が無難」という観点で選んだわけですが、これが果たして以降の設計・・・"Dishal”で上手く扱えるのかが最初のチェックポイントになります。

 さぁ、"Dishal”の出番・・・の前に、上の表から解る幾つかのことを記しておきましょう。

 まず、6つの水晶のfs偏差については19Hzです。和訳した説明書()には、「ラダー型のフィルタ作成に使う水晶のfsは、BWの±2%以内、帯域内のリプルをある程度許容できる場合でも±5%以内の偏差に留めるべき」と書いてありますが、「fsの揃い具合が良い程有利」というのは解りますね。今回のチョイスでは”19Hz/250Hz≒7.6%”であり、±5%の範疇には入っていますから、そこそこの特性のものができる可能性があります。
 まぁ、そもそも"Dishal”は、こうした水晶のfsのばらつきを調整するための計算機能を具備しており、もう少し広範囲にばらついていても何とかして進ぜよう・・・というところがミソのソフトですから、そういう意味では安心して設計を任せることができそうです。

 LmとCmの値は小数点以下の桁数がかなり多くなっていますが、これは設計後のシミュレーションをより正しく行うため・・・と、説明書にも明記してあります。実際、今回使用している水晶で、Lmの小数点第3位が1変化すると20Hz程度、Cmの小数点第6位では何と150Hz程度違ってきます。実際はさらに1桁下で四捨五入するため、この半分くらいの誤差含みということになりますが、シミュレーションにはこの程度の精度で良いようです。

 Quについては、実際のフィルタの設計に"直接的"には使いません(注)。これはあくまで水晶の品質の良さ・・・文字通り”Quality”について今後の参考に採ったものであり、ネットアナ等が無いと簡単に求められない値です(自分は、前回記事の通り「APB-3+治具」で測定、SGと治具でもできます)。
 ちなみに、我が部品箱にある他の周波数の水晶について幾つかQuを測定してみましたが、何れも数万から20万程度・・・結構ばらついています。今回はQuの平均が14万台ですから、まぁ中の上くらいかと思いますがどうなんでしょう この辺りが今回の実験における重要な確認ポイントでもあります。

 「#」の秘密については後々出てくるんで暫し待たれよ・・・ということにして、オレンジ色でマークした水晶を使って設計してみましょう。

3."Dishal”への基準データ入力

 4094.655KHzの水晶(#2)のデータを使って、"Dishal”に計算して貰いましょう。



 まずは水晶の諸元・・・直列共振周波数(fs)とLm値、それとフィルタに使う水晶の数(ポール数)を入力しています。3dB帯域(200Hz)とリプル値の少ないチェビシェフ型(0.1dB)として、ある程度キレの良いフィルタを目指しています。帯域幅は、出来上がったフィルタが確実に250Hzの帯域以内に収まるよう少し狭く(200Hzに)しています。また、水晶の端子間の容量(Cp)には、使用する水晶全部の平均値を入力しています。

 これで、水晶の諸元が入力できました。この時点でのポイントは”fs”であり、これから設計するフィルタの基準周波数になります。

 このような狭帯域フィルタで単純に「キレ」を欲張ると、音響的にリンギングやエコーを伴うものになる(例の、雑音さえも変調されて「コー」というような音になる)ようで、CWのフィルタにチェビシェフ型の選択はあまり良くないようです。JA9TTT/加藤OMの解説では”ガウシャン型"(統計などで良く目にする正規分布の形)にした方がよいそうです。ところが、"Dishal”で設計して完成形に近付ける過程で、お誂え向きにもフィルタのエッジ部分が丸く削られる方向になるそうで、ひとまずこの時点では放っておいてあります。
 なお、形だけがガウシャンになればそれで良いのかはよく判りません。これもでき上がった時のお楽しみ・・・といった感じで

 この入力時点で#2の水晶と同じものが6つ揃っていれば、特性図の左に計算された値を使ってフィルタが作れるんです。ただ、上の表に示したように、実際の水晶の諸元はそれこそマチマチであり、闇雲に連結しても何やら不可解なものができるということなんですね。

4.水晶#2とコンデンサの追加

 さて、6ポールのフィルタの回路図は”Dishal”の説明書の付録にありますが、ちょっと補足してみたいと思います。



 この回路図には、水晶と直列に接続するCsxとグランドへのバイパスのように見えるCkxxが登場します。前者の直列コンデンサは、対となる水晶の直列共振周波数・・・即ちfsを調整する同調コンデンサ(Tuning Capacitor)です。後者は、個々の水晶同士の結合度合いを調整する結合コンデンサ(Coupling Capacitor)です。特に直列接続するコンデンサの方が「結合に関与するっぽい」という風に見えますが誤解せぬように。

 この回路図から、”Dishal”の計算結果として表示されたCk12,Ck23,Ck34、Cs1,Cs3の値をどこに設定すれば良いのか判ります。実は既にこの時点で、Ckxxについては一応計算が完了しています。

 そして、基準周波数となる水晶は以降の設計の都合上、図中の「#2」(オレンジで囲んだ水晶の位置)に置く必要があります。この回路図では左端を#1と見立て、右に向かって番号を振っているイメージ・・・左端の隣が#2に当たるわけですが、この水晶には同調コンデンサは付いていませんね。つまり、#2の直列共振周波数がフィルタの基準周波数になり、その他の水晶はこの基準周波数とBWを用いて個々に調整することになるわけです。

 もう一つ、同調コンデンサの無い水晶が右から2番目にあります(#5)。ラダー型のフィルタは、このように「対称形」なるのが普通であり、この回路図でもそのように描かれているわけですが、この右から2番目にある水晶のfsが#2の周波数と「できるだけ近い」ということが、対称形を構成するためには要求されます。そこで、もし#5に置く水晶のfsが#2のfsに対して偏差が大きい場合、図中の赤い矢印で示した部分に直列に同調コンデンサを置いてfsを調整する必要が生じます。
 これに準じて、Cs1,Cs3についても原則的に#2の水晶のfsとの偏差と実現すべきBWを勘案して計算し直す必要があります。"Dishal”では、そのヒントとなる情報まで既に計算済み・・・というわけで、正しくフィルタ設計に有用なツールと言えます。

5.ここまでの設計結果

 ひとまず、#2に置く水晶を決めた段階で弾き出された結果・・・上の”Dishal"のグラフィックに示した結果を回路図にプロットしてみましょう。



 上にも書いた通り、もし#2と同じ諸元を持つ6つの水晶が準備できれば設計はこれでお終いなんですが、「そうは問屋が卸さない」ということなんですね・・・さらなる詳細は続編にしましょうか

差替 2017.6.21>
 ・選択した水晶の表が、自分の実験途上の古い方になっていましたので差し替えました。また、平均値の欄を整理。
 ・”Dishal”に入力したLm値が少し違っていたためこれを修正・・・入力ミスでした。これに伴い、最後の計算結果も修正。

注釈 2017.06.26>
 ちょっと表現が宜しくなかったようです。直接的に・・・というのは、”Dishal”で計算する部分には関係ないという意味であり、最終的にフィルタの特性の確認や微調整を行うのに"Rm"が必要ですから、Quは自ずと算出できます。
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アパマンというハンデにさらにQRPまで課し、失敗連続のヘッポコリグや周辺機器の製作・・・趣味というより「荒行」か!?

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